地域に根ざすスポーツのある街 /「総合型クラブ」で活力を

平成14年1月5日(土):北日本新聞

◎元気な街づくり富山県内リレーシンポジュウム「福野町編」
 〜 パネルディスカッション スポーツと地域コミュニティー 〜
出席者  パネリスト 菊 幸一氏 奈良女子大学助教授、新湊市出身
日本スポーツ社会学会理事
高森  勇氏   富山県教育委員会教育参事スポーツ課長
池田  公氏 ふくのスポーツクラブ副会長
       コーディネーター 宮川 真清 北日本新聞社論説副委員長

 

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 「地域に根ざすスポーツのある街」をテーマにした、元気な街づくり県内リレーシンポジュウム福野町編がこのほど、福野文化創造センターで開かれた。元バレーボール選手でスポーツキャスターの大林素子さんによる記念講演で幕開け。続いて、総合型地域スポーツクラブ育成の取り組みについて、ビデオ上映やパネルディスカッションを繰り広げた。同町は、「ふくのスポーツクラブ」がNPO(民間非営利団体)認証取得を目指すなど、住民主体の活動が盛んで、参加者は豊かなスポーツライフの創造へ思いを強くした。新世紀の地域づくりを考えるハートフル富山キャンペーン(実行委員会=富山県、福野町、北日本新聞社ほか)の一環。

 

◎時代に合う施策必要 〜 新時代へ3つの柱で
■日本は転換期
宮川  今ほどスポーツが繁栄している時代はなく、スポーツは国民共有の文化財とまで言われている。
        まず二〇〇〇年国体後の県内や、日本のスポーツ界の状況を紹介してほしい。

 

      日本のスポーツ界は「競技スポーツ」と「生涯スポーツ」に分けられ、前者は高さ(高度化)、後者は広がり(大衆化)を求めている。競技スポーツの担い手は親会社(企業)や学校に依存し、ある意味で縛られてきたが、最近は規制緩和が進んでいる。例えばイチローが王や長嶋の時代にいたら、大リーグには行けなかっただろう。スポーツは日本の社会を映す鏡だ。生涯スポーツも以前は「社会体育」と呼ばれ、教育の一分野だった。近年では町全体を一つのクラブとしてとらえた「総合型地域スポーツクラブ」の設立が進みつつある。行政の施策も変わってきた。

 

宮川    二〇〇〇年国体の終了後、強化費削減や企業チームの休部などが続き、学校や企業に支えられてきた従来の方法は転換期を迎えている。その中で県は「新世紀スポーツプラン」を策定した。

 

高森  県は昭和六十年に生涯スポーツプランを策定し「スポーツ人口」「児童・生徒の体力」「国体総合優勝」の三つの日本一を目指してきた。自分も競技力向上対策室長として選手強化に携わったが、二〇〇〇年国体で総合優勝でき、競技力もアップした。国体をやって良かったと思う。しかし、子供の体力は全国平均を上回るものの、昔と比べ確実に落ちており、スポーツ人口もまだ十分でない。また、少子化が進み、中学校の部活動数は十年間で二百以上も減ってしまった。やりたいスポーツができない状態を何とかしなければ。そこで県は「新世紀スポーツプラン」の中で、総合型地域スポーツクラブを県内に広めよう、選手強化で国際選手を育てよう、地域のスポーツクラブを県内に広めよう、選手強化で国際選手を育てよう、地域のスポーツクラブと学校の連携を深めよう、という三つの柱を掲げた。

 

池田  福野町は国体で、バスケットボール少年女子、なぎなたの会場となった。どの県のチームの試合でも、民泊で受け入れた地区の住民が応援合戦を繰り広げて盛り上げた。国体を通じ、それぞれの立場でスポーツにかかわったといえる。福野はなぎなたが盛んだが、昭和四十九年、小学校のある先生の熱意で同好会ができたことが発端だ。五十四年には町なぎなた連盟が発足。国体の正式種目となった五十八年には、福野中学になぎなた部が創設された。このように、町のスポーツ環境は、熱意ある指導者が核になって組織を確立し、整備してきた。その熱意を町がいろんな形でバックアップし、スポーツ団体と連携しながら振興に取り組んできたというのがこれまでの経緯だ。

 

◎住民が主体的に運営 池田氏
■地域文化を担う
宮川  総合型地域スポーツクラブは、文部科学省の生涯スポーツ振興策の一環だ。そもそもスポーツクラブの起源はどんなものだったのか。

 

菊   クラブとは、血縁や地域のつながりとは違う「第三のつながり」だ。日本では、例えば江戸時代の人は生まれてから死ぬまで同じ地域で暮らし、共同で働けば生きていけた。地域のつながり以上の組織は、必要なかったのだ。ところが欧州では、国同士が地続きのため、国境を確定させる第三の組織=クラブが発生した。また、英国では産業革命の後、地方からロンドンに働きに出た人が街頭で情報交換をするようになり、やがて喫茶店が誕生した。この情報を求める第三のつながりが都市型のクラブで、起源は喫茶店にある。

 

宮川  日本では、クラブの発想はなじまないのか。

 

菊   これまでは、クラブと聞くと学校の運動部やゴルフ倶楽部を連想する程度だった。しかし、週休二日制の普及や人生八十年時代到来で、趣味などでつながるクラブを求める動きが出てきた。クラブは人びとの新たな生活基盤、文化や地域づくりの中心になっていくと思う。文部科学省は総合型地域スポーツクラブ設立を推進しているが、行政主導のままでは限界が来るだろう。住民の自発的な動きがないと、クラブは成立し得ない。

 

■町全体を一つに
宮川   福野町は、平成八年度から総合型地域スポーツクラブ育成モデル事業に取り組み、十年には県内初となる「ふくのスポーツクラブ」が誕生した。

 

池田  現在の会員は、二歳から八十五歳以上の住民まで三千二百人。四十講座を超えるスポーツ教室、セミナーがあり、大人三千円、小中学生千円、六十歳以上千五百円の年会費を払えば、多様なメリットが受けられる。具体的には 1)親子軽スポーツ教室、レディースアクア教室など、参加対象を焦点化したメニュー
2)気孔や肩こり予防教室など中高年対象のメニュー 3)ソフトエアロビクスや初級バスケットセミナーなど、多種目・多世代にわたって選ぶことのできるメニューを提供している。

 

宮川  組織運営の面でどんな特色があるのか。

 

池田   ポイントは地域住民が主体的に運営しているところ。自分も町のスポーツ活動が活性化すればいいな、子供たちがスポーツ好きになればいいな、お年寄りがクラブで生きがいを持ってもらえたらいいな、と考えて運営に携わっている。もともとスポーツクラブ連合は各地区ごとにあったが、個別に活動してもさらなる発展ができない状態になってきた。そこで多彩な団体、小さなクラブの枠を取り払い、町全体を一つのクラブととらえられないかと考えた。

 

 高森  総合型地域スポーツクラブ設立は、スポーツを通じコミュニティーを立ち上げようという動きで、県内各地で取り組みが始まっている。県では広域スポーツセンターを設置し、研修会などを開いてアドバイスを行っている。また、専門の人材派遣や国の補助、スポーツ振興くじ、国体を記念して設けた基金などの活用を通じてサポートしていく。総合型地域スポーツクラブを早く定着させ、その後は自主運営されることを目指したい。

 

◎人のつながりを大切に
重要性増す社会教育 宮川副委員長
 ■NPO法人誕生へ
宮川  ふくのスポーツクラブは、十二月十六日にNPO(民間非営利団体)法人の設立総会を開いた。三月の認証取得を目指している。

 

  池田  活動は公益性が高く、NPOの理念に合致している。法人化し社会的に認められることで、学校と連携しやすくなるほか、町から、 スポーツ事業を委託される展開も考えられる。toto(スポーツ振興くじ)の配分が受けやすくなれば、との思いもある。何よりも、自分たちでクラブの運営をしていこうとの気構えが強くなる。

 

高森   欧州では法人挌を持つクラブが多く、日本のように企業丸抱えのケースは少ない。企業は寄付の形でクラブを支援し、クラブ自体は会費を集めてより大きな活動へ展開している。NPO取得はメリットが多い。

 

菊   富山はNPOの活動が全国でも低調な方だ。これは好き勝手な行動を良しとせず、物事に誠実、堅実に対応する県民性の表われ。NPOは公共性を保つことが重要であり、この県民性はかえって良いNPOをつくるためにふさわしいと思う。

 

宮川  この春から、学校週五日制が完全実施となる。社会教育やクラブの在り方が、よりクローズアップされるだろう。

 

 池田  ジュニアスポーツスクールという形式で、中・高生に一貫的な指導ができないか取り組んでいるところだ。今後も、子供たちのスポーツ環境整備に努力したい。クラブで育った子供たちが、いずれ指導者や運営スタッフとして戻り、循環型生涯スポーツ社会が形成されれば理想的だ。バドミントンでは現在、国体レベルの選手から小学生まで同じフロア活動するメニューがあり、少年少女に「あんなお兄ちゃんになりたい」という夢を与えている。また、青年、壮年が社会貢献・自己実現への意欲を持てるようなクラブに、高齢者は生きがいが持てるようなクラブにしていきたい。

 

■健康で人生を歩もう
高森  県民に対する調査では、何らかのスポーツを週一回程度行っている人は35パーセント。せめて50パーセントに高めたい。ある教育長は「健康は人生のすべてではないが、健康なくして人生は語れない」と話していた。総合型地域スポーツクラブの活動を通し、健康づくりにチャレンジする人が少しでも増えてほしいと願っている。

 

菊    人が幸せを感じる指標は時代とともに変化している。以前はモノの豊かさだったが、次第にモノに飽き、人のつながりを求めるようになってきた。しかし、今の社会は人間関係がよそよそしく、コミュニケーションに乏しい。この空虚感、孤独感が社会への不安となり、この不況を一層深刻なものにさせている。安心して話のできる人をたくさんつくってこそ、不安も解消できる。総合型地域スポーツクラブは、人のつながりを大切にする場であり、人びとの価値観や新しい社会づくりに対応する理想モデルになれると思う。学びあい楽しみあう雰囲気づくりを大切にしてほしい。

 

宮川  潤いある地域コミュニティーづくりのため、総合型地域スポーツクラブは役に立つ。活動の大きな広がりを期待したい。

 

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