硬直性を見直す好機 /地域の「クラブ」を活用

平成14年7月8日(月):読売新聞

◎負担過重、顧問不足・・・7割超「指導者」に悩む

 学校5日制の実施には、何もかも学校任せの状態から脱却し、子どもを家庭や地域に帰そうという趣旨も込められている。だたらこそ、休日の部活動のあり方が問われるわけだ。 
 日本中学体育連盟の指導などもあって、全国的に土日のどちらかを部活の休養日とする学校は多いようだ。「大会前を除き、原則、土日とも部活はやめる」との方針を打ち出した長野県などのケースもある。
 秋田県大曲市立大曲西中学校が昨年度末に実施した保護者アンケートでは、「もっと部活動を熱心に」という声と、「休日は家庭の自由にしてほしい」という対極の意見が相半ばしたという。受け皿としての期待は高いが、過熱も困るというのが部活ニーズの実情だろうか。
 だが、少子化の時代、学校の部活は曲がり角に来ている。子どもの数が減ったせいで部員が集まらず、廃部に追い込まれるケースも多い。また、部活指導の担い手だった若手教師に補充がなく、どの学校も指導者不足に悩んでいる。土日出勤などで、顧問の教諭の負担を増やしたくないという学校側の事情もある。
 全日本中学校長会が一昨年、全国約400校の中学校長に部活についてアンケートを行ったところ、7割以上が「指導者」についての悩みを挙げた。中身は「負担過重」「専門的な指導ができない」「顧問不足」など。そして部活動の機能を学校から地域にゆだねる「社会体育への移行」の希望を尋ねたところ、「すぐにでも」「徐々に」と時期に差はあったものの、「現実してほしい」という意見が8割を超えた。
 そうした要請に呼応するものが、文部科学省や日本体育協会が推進している「総合型地域スポーツクラブ」だ。
 小学生から高齢者まで多様な競技レベルの人間が好きなスポーツを選べるよう複数の種目が用意されている。地域住民が自主運営し、崩壊したと言われる地域コミュニティー再生への起爆剤になることも期待されている。現在、同省と同協会が、全国215地域に助成金を出して支援しており、他の地域でも設立の動きが広がっている。


◎幅広いニーズ包む

 埼玉県所沢市内の総合型クラブの運営に協力する早稲田大学人間学部の木村和彦教授(スポーツ経営学)は、「学校部活動については、過度に勝敗を重視しているとか、一度入ったらなかなかやめられないなど、硬直性、閉鎖性も指摘されている。これに対し、総合型クラブは、高いレベルを目指す人から健康志向の人まで、スポーツに対する幅広いニーズを包み込んでいる。両者の『提携』は、部活の悪弊を見直す機会になるだろう。また、指導者不足に悩む学校にとっても、経験を積んだ優秀な指導者を発掘し、部活をゆだねる格好の場となるにではないか」と話している。


◎学校5日制 変わる「部活動」

 先月15日の土曜日、岐阜県各務原市の総合体育館。県内外から十数チームが集まり、中学女子バスケットボールの合同練習試合が行われていた。有力校に交じって奮闘する精華中。コートサイドから選手にアドバイスを送るのは、チームの外部指導者である高田美幸さん(40)だ。
 岐阜市のスポーツ教室指導員を務める高田さんは、もともと、小学生の「ミニバスケットボールクラブ」のコーチだった。中学生も指導するようになったのは3年前。小学生から中高年まで地域の生涯スポーツの充実を目指し、文部科学省などが推進する「総合型地域スポーツクラブ」が校区内に設立されることが決まり、小、中学生両方を指導する「地域指導者」として白羽の矢が立った。
 精華中のバスケ部員の多くは、小学生時代から高田さんの指導を受け、気心も知れている。「何でも相談に乗ってくれるお母さんのような存在。中学に進み、部活を選ぶ時も迷わなかった」と口をそろえる。
 「今日この子に元気がないな、体の調子が悪いのかなとか、小学生から続けて指導していると、気付くことが多い」と高田さん。
 部の顧問の若原康司教諭は「自分にない指導に、はっと気付かされることも多い」と話す。若原教諭は教師3年目。バスケ部の指導にも熱心だが、今春から新学習指導要領の実施、絶対評価の導入に加え、3年生の担任となり、進路指導なども忙しくなった。
 「放課後も会議があり、部活に顔を出せないことも多い。土曜日に仕事をすることも。そんな時は高田さんと連絡を取り、フォローしてもらう。チーム・ティーチングのようなつもりでやってます」と若原教諭は連携もメリットを語る。
 今春、正式に発足した総合型地域スポーツクラブ「精華スポーツクラブ」には、野球やサッカー、水泳など十数競技に加え、レクリエーション的なメニューもそろっている。
 同中では、運動部員を全員、同クラブに会員登録し地域指導者の派遣を受けている。男子バスケ部は、7年前から指導を受けているコーチの手腕でめきめき力が付き、現在は県チャンピオンだ。
 専門的指導ができる顧問教諭のいなかった部にとっても、この制度は”朗報”。柔道部は新たにクラブ登録した警察官OBから、土日に指導が受けられるようになった。陸上競技では、地元に住む他の中学の教師が、小、中学生全般を指導することになった。
 また、毎週土日が連休になったことで、各部とも遠征や練習試合が増えた。遠征先までの交通手段の確保や宿泊地の手配など、これまで教師が担ってきた様々な負担に、地域指導者や保護者が協力する場面も増えた。「クラブを通して、地域の協力が得やすくなった」と林治彦教頭は話す。
 その一方で、「学力低下」問題に関する保護者の関心も高く、「子どもが部活一辺倒になっていては困るという悩みもある」と林教頭は明かす。日曜を中心に、週1度は部活休養日を設け、休日の過ごし方を各家庭の判断に任せるようにしている。

 完全学校週5日制の実施に伴い、学校の「部活動」に変化が表れてきている。週末の子どもたちの受け皿の1つとして期待がかかる一方で、新教育課程による学力の低下の不安から、部活の”過熱”を懸念する声もある。指導にあたる教師の負担増、指導者不足など現実的な問題も。そんな中、岐阜市立精華中学校では、今春から、地域の指導者を活用したスポーツクラブに土日の部活を任せようという試みを始めた。


◎スポーツ通し人間作り、地域作り

 精華スポーツクラブもモデルとなったのが愛知県半田市の市立成岩中学の明き教室に事務局を置く「成岩スポーツクラブ」だ。同クラブは、1996年の設立。ほぼ同じころ、成岩中では試合に参加する場合などを除き、土日の「部活」をなくした。
 週末も運動したい生徒は同クラブに登録する。部活と同じ種目でもいいし、違うものでもいい。運動部員でなくてもいい。同中の教師も住民と同様にボランティア登録し、週末指導の協力に見合う謝礼がクラブから支払われる。運動のほか、夏休みの自然体験キャンプなど魅力あるメニューがそろう。
 同クラブ理事で、クラブ提唱者でもある榊原孝彦さんは「学校という狭い場ではなく、地域に出れば、たくさんの大人に囲まれ、活躍する場が広がる。子どもにとってそのほうが意義は大きい。競技でいい成績を収めるのが目的ではなく、スポーツを通した人間作り、地域作りがクラブの理念です」と話している。

 

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