スポーツライフシンポジウム2004 スポーツクラブと弾むまち
                                            平成16年12月26日(日):朝日新聞

特定非営利活動法人(NPO法人)クラブネッツと朝日新聞によるスポーツライフシンポジウム2004「地域が舞台!スポーツクラブが社会を変える」がこのほど、大阪・リサイタルホールで開かれた。日本サッカー協会の川淵三郎会長が「スポーツクラブとホームタウンづくり」と題して基調講演。水上博司・クラブネッツ理事(三重大助教授)が総合型地域スポーツクラブの現状報告をし、黒須充・同理事長(福島大教授)の司会で、スポーツジャーナリストの二宮清純さん、アテネ五輪陸上代表の朝原宣治さん、スポーツライターの山田ゆかりさん、NPO法人クラブレッツの榎敏弘クラブマネジャーがスポーツクラブの魅力や課題、可能性について意見を交わした。

地域の核、Jも担う
                                      日本サッカー協会  川淵 三郎会長

 僕が初代チェアマンを務めたJリーグには、理念が三つある。一つ目はサッカーの技術向上と普及促進、二つ目は国民の心身の健全な発達への寄与、三つ目は国際交流です。
 二番目は、実は心臓部で、一番大事。言い換えれば、老若男女だれでも、そこに行けば、指導者がいて気軽にスポーツを楽しむことができる、地域の核となるクラブをつくるということ。「百年構想」とは、これを絶対成し遂げるという決意表明です。各都道府県にクラブを200ヵ所、全国で1万ヵ所つくることを最初に掲げました。
 Jリーグの売り上げが落ち始めたとき、チーム数を減らすべきだという意見があった。でも理念からすれば、全国各地にチームをつくることが大目標。縮小案は何回か出たが、断固阻止した。
 浦和レッズは人気が高く、いまや経営が完全に自立している。来年からはラグビー、野球、テニスなどクラブ会員が利用できるいろんなスポーツ施設を自前で造る。13年目を迎えるJリーグで初めてです。これをきっかけにJリーグ全体が大きな進歩をすると期待します。
 Jリーグができた時から全国の小学校に芝生の校庭を造ろうと言ってきた。出来たときの子どもたちの目の輝きはすごい。子どもたちが飛び回りたくなる、遊びたくなる環境を地域社会に作っていくべきです。 日本では誰かがやってくれるのを待っている。クラブ作りも、今は熱意のある人がまず中心になって取り組んでいかないと進まない。でも、みんなに喜んでもらえるクラブの良さを一度知れば、積極的に周りが合流してくると思う。そういう動きが社会に根付けば、日本が大きく変わり、スポーツクラブがどんどんできる時代が来るのは間違いありません。

 

クラブネッツ  黒須 充理事長
スポーツジャーナリスト  二宮 清純 さん   学校や企業は脇役に
アテネ五輪陸上代表  朝原 宣治 さん   「一流」育てる身近さ
スポーツライター  山田 ゆかり さん  子供の感性養いたい
クラブレッツ・マネジャー  榎 敏弘 さん  縦のつながり深まる

黒須 日本のスポーツを支えてきた学校と企業の基盤が揺らぎ始めています。スポーツの構造改革の必要性を唱えている二宮さんに口を切っていただきます。

二宮 日本のスポーツは今こそ地域に「大政奉還」しないといけない。江戸幕府が大政奉還で終わっても,日本という国は続いた。明治維新にあたる改革をやって新しいシステムをつくらなければいけない。モデルはお祭り。老若男女が一体となってみこしを担ぎ、地域が盛り上がる。これがスポーツの原型だと思うんですね。学校,企業にはスポーツを支える側に回ってもらい、構造を変えて、地域,行政と企業がスクラムを組んでいかないといけない。
 日本にはチームはあってもクラブをなかった。一つの目的のためにつくられたチームは、すべきことが終わったら解散する。でも、クラブは解散してはいけません。これは家庭。最後まで寄り添っていくものです。チームからクラブへ移行しないと、日本のスポーツは豊かにならない。

黒須 企業スポーツについて、実際に大阪ガスで活動している朝原さんから。

朝原 95年から大阪ガスに所属して10年になります。陸上部を持つ企業を様々見てきて、栄枯盛衰を感じます。景気が良くなればどんどん選手を入れますが、最近は縮小傾向でクラブ自体がなくなったところもある。企業が余程の有望選手でないと採用しないので、大学、高校で活躍した選手でも協議を続ける場所がない状況になっている。

陸上の大会はサッカーや野球に比べると盛り上がらない。五輪や世界選手権のない年は、全日本実業団でも観客はまばらで、選手は何のためにやっているのかという気持ちになる。企業が地域に密着していれば、知っている人が出ているからと応援したくなるもの。まずはそこから始めて、もっとスポーツを盛り上げていきたい。

黒須 山田さんは子供の心や体の問題に危機感を覚えて岐阜県を定期的に訪れています。

山田 飛騨市神岡町にある山之村です。昨年は小さなキャンプ場でアルバイトし、町からやってくる子どもたちに覇気がないのに驚いた。今年は3週間訪ね、キャンパーの子どもたちと一緒に遊びました。松ぼっくりや石ころを拾い、色をつける。それにあきたら、虫取り。次は魚つかみ。子どもたちに感性を養ってもらいたかった。
 今後は、これを新しいスポーツ少年団にしたい。小学1年生から中学1年生まで20人の山之村の学校の教育実践研究と共に、子供の心と体、感性を育む地域密着の活動を目指したい。これもスポーツクラブのあり方ではないでしょうか。

黒須 総合型地域スポーツクラブとは一体どのようなものなのか。実際にクラブを立ち上げて活動されている榎さんに紹介していただきます。

 中学校教員として剣道を教えているうちに地域スポーツクラブの存在を知り、立ち上げました。(クラブの活動をビデオを使って説明して)地域に輝いている人はいっぱいいるんです。
 その輝きと思いやりの点と点を結んで線に、線と線をつなげて面にします。面と面を立ち上げて立体にしますが、立方体のかちっとした形ではありません。穴があいていたり、ふわふわしていたり。倒れそうなんだけども、温かい空間をコーディネートするのがクラブじゃないでしょうか。みんなが自由にやれる気楽なクラブづくりを大事にしています。

黒須 スポーツクラブでは、どんな活動が考えられますか。

二宮 料理が得意な人は、スポーツが終わった後にパーティーで食事を作る。ファッションに興味のある人はユニホームをデザインする。すべてを合わせてクラブなんです。サッカーのワールドカップでは、90年イタリア大会はオペラコンサート、98年フランス大会ではファッションショーが会期中にあった。体を動かすかどうかだけではなく、人間が生きていてよかったという活動すべてがスポーツだと思う。

朝原 クラブでトップアスリートを育てるためには、身近にスポーツがあることが大事。私は、神戸の山奥で生まれ育ち、子供同士で野球やサッカーをしていた。95年から足かけ5年間、ドイツに留学しました。そのとき私もクラブ会員の一人でした。トップ選手が走る横で、クラブの子供たちが遊んでいた。あこがれの存在が近くにいるというのは、いいシステムだと感心した。

山田 道のスポーツと出会える喜びを与えるのもクラブの役割。山之村の学校に、バスケットのアトランタ五輪代表の萩原美樹子さんや、テニスの松岡修造さんを小さいころから指導した飯田藍さんが来てくれた時は、子どもたちの保護者も家業の手を休めて集まってきました。

 今の中学生は、1日平均何人の大人と話をすると思いますか?アンケートによると、1.7人。その一人は先生で、もう一人はお母さんだそうです。それも会話ではなく「勉強しろ、早くしろ」。では、もう一問。自分が住んでいる地域の小学生5人の名前を言える方はいますか?スポーツクラブでの多世代の交流で、薄くなっている縦のつながりを再生できるかもしれません。

黒須 ここからは、参加者からの質問をいくつか取り上げます。
 スポーツ少年団には、型にはめる、子供をどなるといった指導者も少なくありません。どうすればよいのでしょうか。

山田 大人の指導者は自分が勝ちたい、記録をだしたいのではないですか。プレーヤーズ・ファースト8選手第一)の考えに立てば、暴言、体罰は少なくなるでしょう。

黒須 小さい頃はいろんな競技をした方がいいのですか。中学時代にハンドボールをされていた朝原さんにうかがいます。

朝原 中学や高校の頃に植え付けられたものはなかなか取れない。私の場合は好きなようにやってきてよかった。楽しみながら指導を受けられればいいが、例えば、指導者が高校総体に優勝させたいから練習させるというのは間違いでは。

黒須 クラブを育成する上で大切なポイントについての助言をお願いします。

二宮 まず、やるんだという意志の力。意志あっての技術です。引っ張っていく人には、情熱と使命感、行動力の三つが必要になる。

 今までスポーツを行政、企業、学校に任せっきりにしてきましたが、これからは地域の出番です。しかし、地域だけで頑張らないことです。まだ独り歩きではできないので決してクラブだけで抱え込まず、学校や企業、行政に手助けしてもらいましょう。みんなの力と知恵を出し合うことが一番大事なことだと思います。

黒須 スポーツクラブとは、地域社会の接着剤であり、5年後10年後の地域の未来を大きく変える可能性を持っていると言えるでしょう。

 

世代超え元気に クラブネッツ水上博司理事

 地域密着型のスポーツクラブができると、いろいろな効果がある。世代を超えた交流や地域住民間の交流、地域で子どもの成長を見守る機運がたかまり、子どもたちが明るく活発にまる、元気な高齢者が増えるといった変化が地域に起こります。
 クラブネッツの調査では、総合型地域スポーツクラブや、それを目指して活動している団体は、02年は全国で631団体だったのが今年9月には1784団体に増えた。都道府県別では兵庫県や愛知県が多い。しかし、自立に向けて進んでいるクラブは少数派です。
 528件の回答を得たスポーツNPOへのアンケートでは、学校以外の公共施設を活動拠点にしている団体が最も多かった。今後のクラブの発展には、学校との関係が重要な課題となります。

クラブネッツ   全国の総合型地域スポーツクラブとスポーツ分野の特定非営利活動法人(NPO)支援を目的に98年に設立。99年、NPO法人の認証を受けた。クラブ設立や運営の情報を集め、電子メールでの意見交換の場を提供するほか、市民へのPRや国などへの政策提言なども行っている。02年3月、神戸アスリートタウンクラブと共催で初のスポーツNPOサミットを開催。日本サッカー協会の川淵会長は特別顧問。

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