野球再生  すそ野拡大  クラブの役割重要に

                                                      平成16年7月30日(金):読売新聞

 「バカヤロー、何やってんだ」。練習試合などでミスした子供を、監督がしかりつけている。

 こんな光景を見るたびに、自身も少年野球を指導している巨人の桑田真澄投手(36)は、情けない気持ちになる。

 子供たちに、理想とは、かけ離れた指導を行う大人は少なくない。「今は昔と違う。ほめて力を伸ばすことも大切なのに・・・。残念だが、大切なことを教えられるのは100人に1人かなあ」。ため息まじりに桑田投手は話す。

 プロ経験者が少年のチームを指導する例も、ないわけではない。

 山口県光市の「山口東リトル・シニア」の総監督は、ロッテ、太平洋クラブ・ライオンズで外野手として活躍した藤井信行さん(55)だ。銀行に勤務しながらの指導は肉体的につらい。だがプロ経験者として「体験が多い分、いろいろな見方ができる。精神的・肉体的に弱い今の子供に、野球の本当の面白さを教えることが使命」と言い切る。そしてこう続けた。

 「野球を正しく教えられる指導者の育成に取り組まないと、野球界のすそ野は広がらない」

 ※

 国内の少年野球チームはボーイズ、リトルなど硬式で約2000.小中学校の野球部など軟式チームを合わせれば10000を超す。そこで育った野球少年が、プロ野球を頂点としたピラミッドを下支えし、その中から、甲子園を沸かせる高校球児やプロ選手が生まれる。

 規律を暖和した高校が増えたこともあり、高校球児は今年、過去最高の16万人に上る。ところが、この10年で40万人以上が卒業しているのに大学や企業で野球を続けている選手はわずか2万人程度だ。野球を続けたい若者の受け皿が、絶対的に不足している。

 「野球をやる子は増えているのだから、野球界の構造を作り直して底辺を拡大すべきだ」

 中日で首位打者にもなった谷沢健一さん(56)は、野球界の構造改革を訴える。

 谷沢さん自身も今年2月、ボランティアで西多摩倶楽部(東京都福生市)の監督になった。泥まみれになりながら、プロの視点で指導を続ける。その姿を見て、「生半可な気持ちではダメだと思った」と斉藤典臣副主将(26)。チームは生まれ変わった。6月の都市対抗東京都2次予選では、それまで勝てなかった企業チームを退けた。

 目に見える改革の一つとして注目されているのが西多摩倶楽部のようなクラブチームの振興だ。リストラの一環で休・廃部が相次ぐ企業チームに代わり、野球界の底辺拡大に、少しづつだが確かな役割を果たし始めている。

 財団法人日本野球連盟に登録されたクラブチームの運営形態は、個人の会費や、複数企業から賛助金を集めるなど様々だ。企業チームはこの10年で約半数の83に減ったが、クラブチームは逆に55も増え、231になった。

 米大リーグ・ドジャースの野茂英雄投手(35)が設立したNOMOベースボールクラブや、名前に企業名は残したまま地元企業からの後援会費で活動しているNTT信越硬式野球クラブ(長野市)もそのひとつだ。NTT信越は2年連続で都市対抗出場を決めている。

 クラブチームの中から、竹下慎太郎(阪神)、本間忠(ヤクルト)、小倉恒(オリックス)らプロ選手も生まれた。本間投手を送り出した野田サンダース(新潟市)の野田誠記オーナー(51)は「いづれは企業チームん代わってプロを目指せる存在になれる」と、クラブの将来像を語る。

 プロ野球は近年、人気が衰えた、と言われる。だが、読売新聞が行っている世論調査によると、プロ野球は「見るのが好きなスポーツ」として95年から今年まで10年連続首位になっている。

 「受け皿を広くするためにはクラブの役割は重要。多くのファンを引き留めるためにも、これからは野球界全体で選手のすそ野を広げる努力を続けていかなければならない」

 一流選手として多くのファンと接してきた谷沢さんの言葉は、野球界がこれから進むべき方向性を示している。

戻る