インサイド  「次代の針路」第3部  子どもの体力[4
                                                       平成22年9月24日(金)毎日新聞
 

昼休みに遊び指導員

 横浜市青葉区の市立つつじが丘小学校。日焼けした青年が職員玄関から入ってくるのを、子どもたちは目ざとく見つけた。「あっ、近(こん)さんだ!」。たちまち輪の中にうもれたのは、横浜市体育協会の近佑治さん(28)。週に1度、35分間の昼休みを使って、子どもたちに遊びを教えている「遊びのお兄さん」だ。この日は、「ダブルタッチ」と呼ばれる2本組みの縄跳びと、軟らかいフライングディスクを使ったゲーム「ドッチビー」を教えた。

 4年生の笹木美来さんは「縄跳び、最初は全然跳べなかったんだよ。今は(連続で)16回も跳べるの」と目を輝かせた。近さんのほか、ボランティアの保護者と上級生が指導に当たり、基本的に教諭はかかわらない。

 ボランティアの一人、西川一江さん(43)は「子どもを狙った犯罪も多く、(ここでは)子どもたちの様子も見られるし、何より安全なのでありがたい」。外で遊ばせばない傾向は、体力低下と密接にかかわる。

 

 06年9月に改定された国のスポーツ振興基本計画には目標として「子どもの体力向上」が加わった。横浜市の場合、05年度の全国体力・運動能力調査をみると、同市の小学生が全国平均を上回ったのは96項目中、4年男子の握力など5項目だけだった。市体協の職員は頭を抱えた。

 市内を視察して気づいたのが、休み時間に閑散としている学校のグラウンド。聞き取り調査をすると、大阪教育大付属池田小学校で起きた無差別殺傷事件(01年)以降、教諭の目が行き届きにくい休み時間はグラウンド使用に消極的になっている実態が浮かび上がった。その中で生まれたアイデアが、休み時間に体協職員が遊びを教える「出前授業」だった。

 

 市体協では07年度から3年間で延べ134校、1908回の出前授業を実施。永嶺隆司・地域スポーツ支援担当課長は「放課後や休日は参加率が低く、体育の時間は先生たちの領域。休み時間は子どもたち全員がそろっており、(授業と放課後の)すき間を狙った」と自信を深める。

 とはいえ、学校までは出向いて子どもたちに遊びを教える活動はまだなじみが薄い。安全上の理由で外部の人間の立ち入りを拒んだり、「学校のことは教師がやる」と市体協の活動に難色を示す学校もあったという。だが、つつじが丘小の小正(こまさ)和彦校長は「学校外のリソース(資源)を活用することは重要。子どもにとって、親でもなく教師でもない大人とかかわることは刺激につながる」と理解を示す。

 小正校長は、児童の体力低下を「二極化」ととらえている。「意識の高い家庭では野球や水泳などをさせ、体力も充実している。一方で、(放課後の生活を)子どもに任せっきりの家庭では、テレビゲームなどに走りがちだ」と指摘。その結果、平均値として体力が低下していると憂える。

 「子どもは本来、集団で遊ぶことが好き。体を動かさない子どもたちを引っ張り出す効果もある」と小正校長。近さんも「体を動かすことは楽しいと思ってもらいたい」と期待する。休み時間を活用した“遊び指導”。運動の「きっかけ」づくりを狙った地道な活動が続く。

 

 

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