インサイド 「次代の針路」第3部  子どもの体力[5]
                                                       平成22年9月26日(日)毎日新聞
 

「土スポ」で多種目体験

 千葉県佐倉市で総合型地域スポーツクラブを運営するNPO法人「ニッポンランナーズ」は毎週土曜日、小学生向けの「土曜スポーツ探検隊」(土スポ)を開催している。土スポが始まったのは02年6月。学習指導要領の改定で学校が完全週5日制になった時期と重なる。「隊長」を務める北晃チーフコーチ(29)は「絶対的な運動量を確保し、アスリートの基盤作りができればと考えた」と狙いを語る。

 最も重視しているのは一つの競技に特化させないこと。現在、参加者は約70人で、年間で15を超える運動種目に取り組む。子どもたちをプレゴールデンエージ(小学1〜3年生)、ゴールデンエージ(同4〜6年生)の年代に分け、4月にはランニング、一輪車などで体幹部分を鍛える。それが終わると、器械体操などで姿勢を保つ能力を、夏ごろにはレスリングやカバティでフットワークを磨く。最後には野球、ゴルフ、剣道などで自分の力を道具に伝えることを学習する。それぞれの競技の元日本代表などゲストコーチを招くこともあるが、主眼は技術を磨くことではなく、あくまでも年間を通していろんな角度から運動神経を刺激することだ。北チーフコーチは「もっとも運動神経が発達するこの時期に、さまざまな体の動かし方やその楽しさを覚えておけば、後のスポーツ活動にも必ず生きる」と強調する。

 

 日本において、子どものスポーツ振興は、約50年前の1962年、日本体育協会の50周年事業として創設された日本スポーツ少年団が軸になった。昨年度の登録数は3万6138団体にも及ぶ。しかし、そのほとんどが野球やサッカー、バスケットボール、剣道などの単一競技を教える団体であり、複数の競技を行う「複合タイプ」は4487団体と全体の12%に過ぎない。山梨大教育人間学部の中村和彦准教授は「運動する、しないの二極化と同時に、運動する子どもの中でも特定のスポーツしかできない子が増えている。子どもの体力低下は日本特有の問題ではないが、海外ではすでに取り組みを始めている」と指摘する。

 中村准教授によれば、米国では09年から小学生以下の全国・ブロック大会を禁止して、小学生時代は競技スポーツ、競技主義に偏らないように取り組み、日本の少年団に当たるクラブは3種目以上の競技が必須になっている。また、オーストラリアでは、政府が子どもたちの放課後の運動プログラムを提供する取り組みを始めている。競技の技術力向上を図るのは中学生以降で、小学生の時は運動機会の増加と、さまざまな運動形態を体験することに重点を置いているという。
 

 競技者としてスポーツを続けるためには、いつかは1つの競技を選択する。だが、土スポの第一期生で女子7人制ラグビー日本代表の川野杏吏(18)は「小学生時代に複数の競技を経験したことで、対応力や柔軟性がついたと思う」と経験を語る。時々、土スポや自分が通っていたラグビースクールで子どもたちを指導しているが、新しい動きを吸収する能力は土スポの生徒の方がたけているという。「体の動かし方を知っているというアドバンテージは大きい」と川野。子どもたちが複数競技に取り組む効果を身をもって実感している様子だ。

 

 

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