メダル量産「スポーツ立国戦略」
                                                  平成22年8月24日(火)日本経済新聞

文科省案にJOC反発
選手強化主導権争い

 日本のスポーツ社会の将来の姿を示す「スポーツ立国戦略」が今月末にまとまる。日本は国として五輪のメダル量産に本腰で取り組み、メダル大国を目指すという。ところが、その内容に日本の五輪スポーツを主導してきた日本オリンピック委員会(JOC)がクレームを付けた。その背景を探った。

 文部科学省が7月下旬に公表した同戦略案は、今後の日本の五輪でのメダル目標を過去最多(夏37、冬10)以上と明確に揚げた。地域のスポーツ振興の面では、全国300の拠点スポーツクラブに引退した五輪アスリートを指導者として配置してスポーツ環境を充実、成人の3人に2人が週1回以上はスポーツを楽しむ社会を実現するなどとしている。

 

行政の全体像

 関連資料には、その成果として2.5兆円の医療費削減、4.2兆円のスポーツ市場拡大、10年間で約1万5000人の雇用創出などの試算もあった。地域社会の活性化にスポーツが果たす役割も重視した「スポーツ版ニューディール」ともいえる内容である。

 拠点となるはずの総合型地域スポーツクラブのほとんどが運営に四苦八苦している現状などを考えれば「絵に描いたもち」と皮肉も出そう。とはいえ、スポーツ行政の全体像が具体的に描かれたのは初めてだ。

 これに対してJOCは今月、「JOCと日本体育協会が選手強化とスポーツ振興を主導する従来の体制を維持すべきだ」など、一部見直しを求めるともいえる意見書を文科省に提出した。

 JOCが反発するのは同戦略案が、文科省の独立行政法人日本スポーツ振興センターを全体の中核的な役割を担う組織とし、同センターが持つ国立スポーツ科学センター(JISS)が選手強化、育成の中心になると考えられるからだ。

 これには伏線がある。強化のための国庫補助金はJOCから各競技団体の合宿や遠征などの事業に分配されるのが主ルート。だが、昨年の「事業仕分け」の結果、今年度のJOCへの補助金は5%カットの25億9000万円に減額。一方で文科省は国直轄の強化事業であるマルチ・サポート事業の予算を前年度の3億1000万円から18億8000万円に増額した。JOCは新法人を設立して同事業を受託しようと名乗りを上げたが、文科省はJISSと筑波大を委託先に選んだ。

「現場の事情をよく知るJOCが分配の中心になるべきだ」がJOCの言い分だが、文科省競技スポーツ課は、「JOC補助金は全体の基盤強化。マルチ・サポートは、メダル獲得に直結する種目や選手を重要支援する」と説明する。

 

ガバナンス課題

 同戦略案の方針に従えば、今後はメダル獲得につながる強化資金は、国、JISSから直接、競技団体に流れるようシフトすることも考えられる。JOC幹部は「このままではJOCは主業務の強化事業を取り上げられ、選手派遣と五輪運動を普及するだけの組織になる」と危機感を募らせる。

 競技スポーツ課はマルチ・サポート事業について「ロンドン五輪の成績が期待を裏切ったり、選手の評価が低かったりすれば、委託先を含めて事業を見直す」と話す。投入した資金に見合ったか、結果で厳しく査定するということだ。

 国民の立場で見れば、アスリート強化の中心がJOCでも国でも大きな違いはない。重要なのは公金が無駄遣いされず、成果につながること。同戦略案を固めるための有識者ヒアリングに参加した筑波大の高橋義雄准教授は「JOCやスポーツ団体はもっとガバナンス(統治能力)を高めないと、こうした流れに対応できなくなる」と指摘する。

 「役人の天下り先」などと批判が集まる独立行政法人だが、それでも情報開示が法律で義務付けられている。現在、スポーツ団体にはそうしたチェック機能がない。渦中の日本相撲協会だけではなく、五輪スポーツの世界でも、ガバナンスに問題を抱える団体は数多い。

 現在もJOC傘下のクレー射撃とスキーの両競技団体が人事をめぐって混乱中。10年ほど前には、10以上の競技団体が補助金、助成金を不適切に運用したとして返還を求められた。JOC自身も、競技団体を統括する組織というより、利害調整組織というより側面が強い。新たな大きな事業を任せる受け皿には選びにくいだろう。

 スポーツが重要施策と位置付けられれば、当然、新たな予算とともに大きな義務と責任が生まれる。スポーツ団体には、それに応えられるだけの組織の強化が求められている。

 

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